第十話 :旅行者を狙うタクシー

タクシーに対しては習慣や言葉の違いから当たり前の請求をしているのにぼられたと嘆く話が良くある。私自身イタリアで全くぼられた経験がないので、殆どのケースは勘違い又は本人の責任だと断定する。勘違いの理由は大きく分けてふたつある。

ひとつはミラノの場合、空港から市内へ行く場合追加料金がかかる。また、日曜日や祭日、11時過ぎれば追加料金が掛かる。荷物1個に対してのチャージもある。今はなくなったが、以前は市内を出れば出た地点から先は2倍の料金が掛かる(市内を外れれば帰りの客を乗せられないのでという理由)などの市で決められた料金体系があり、それはタクシーにのれば必ず書いてあるのだが、誰もそんなものを見ようとしないのでぼられたと思う様だ。

あとひとつは、空港でタクシーと呼びかけてくるのに掴まったケース。これは個人タクシーではなく、ハイヤーのケースがある。これについては、前にも書いたように「タクシー?」と呼びかけてくるのには乗らない(タクシー乗り場では別だが)注意が必要。

ただ私はタクシー乗り場でタクシーに乗りながら、疑問に思って運転手に問いただしたことがある。タクシー乗り場で乗ったのにタクシーの上にタクシーという表示板がなかったからだ。イタリアに限らず地方へ行くと普通の車体の色でタクシーをやっている事が良くある。ベンツで個人タクシーをやっているケースなどがこれだ。従い、疑問に思った私は「あなたは本当にタクシーか?」と聞いたのだが、疑われた運転手は気分を相当害したらしい。

私にとっては当たり前のことを聞いただけだ。なぜ表示板を付けないのかは、車の天井に穴を開けたくないからだそうだが、そうだと外からみてタクシーだとは絶対に判らない。イタリアは”流し”はないので、呼び出しかタクシー乗り場で乗るしかないので、こんなこともあるのだろう。疑われた運転手は最後まで大層ご気分が悪かったようだ。

さて本題に移ろう。パリでのことだ。以前にも泊まった事がある日本人が多いホテルに泊まっていた。空港までタクシーを頼んだところ何故か変なところからタクシーがやってきた。変なところというのは、ホテルの前まで来ないで角のところで待っているのだ。で、運転手が来て荷物を積み込んで出発だ。

パリ空港へ向かう途中で小細工が始まった。運転手が何かをするとメーターの表示が消えた。

後はご想像のとおり。空港へつき、運転手はメーターを覗きアッと驚く。そして、申し訳ないがメーターが壊れた様だから規定の料金を払ってくれという。その料金というのが法外な料金だ。通常の3倍くらいの料金を言う。何も分らない日本人旅行者は支払って終わり。

ここまで私の泥棒日記を読んで来られた方は、私がここでまともに払っていないと思われるか、またはそう期待されたことと思う。どうして私がこの場を切り抜けたかが重要な事なのだが、実はこの回は相手の言うまま払ってしまったのです。
実は納得しない私は相手の言い分を聞いて、そのまま空港へポリスを探しに行ったのです。実際のところいくら掛かるのかを分っていたのではなく、漠然と高いと感じた私としては納得出来る金額ではなかったが、かといっていくらが妥当かとの数字もなかったので、誰か連れてこようとしたのです。

しかし、当時私は1人ではなくもう2人をタクシーの側に待たせたままポリスを探しに行ったのだが、近くで見つけることが出来ずに一度タクシーに戻ったら、もうその連れが支払いを済ませていたのです。この人は争うを好まない人で、金で済むなら安いことだと言って払ったというのだが、残念ながらこんなことが悪い奴をのさばらせるんですね。彼に悪気はないものの、しっくりいかない事件でした。

日本でも同じ様な経験があります。成田空港から千葉にある私の家までタクシーに乗ったらメーターが故障。運転手さんが言うには、申し訳ないと。で、料金はいくらで良いからという金額は確かに通常より1000円ほど安い。このメーターが意図的であったかどうかは分らない。いずれにしろ、営業実績に乗らない収入があったことは確かだろうから。


第九話 :車を襲う泥棒たち

一般の旅行者の場合、あまり現地で自分で車を運転して乗ることは少ないと思われるが、中には必ずレンタカーを借りて移動すると言う人もいる。国際免許も取りやすくなって、運転しなくても国際免許だけでも持っている人はかなりいるだろう。旅行のスタイルも団体旅行から個人旅行へ移行しているとも聞き、行き帰りは団体だが中身は全てプライベートと言うケースも多くなっている様だ。

これからは予定になくとも急に車を運転することもあるかも知れない。そんなあなたの為に車を狙う色んな手口を紹介しよう。
欧州のカーラジオはどういうわけか取り外し出来る様になっているものが多い。私が聞いたところ、とにかくカーラジオ泥棒が多いから取り外しが出来る様にとの事だが、どうも逆の様な気がする。取り外し出来なければ盗られないと思うのだが。或る人いわく、取り外し出来ないカーラジオを付けているとこれを無理やりはずして持っていこうとするので、被害が大きいそうだ。

さて、私自身イタリアでは半年で3回やられた。一度はレストランで食事中のこと。長い夕食が終わり車に戻ると窓ガラスが割られ、きれいにカーラジオが持ち去られていた。
そのすぐ2ケ月くらいあと、今度は郊外の公園の前、人通りがあるところの昼間。このときもきれいに窓ガラスが割られ、カーラジオが持ち去られていた。3度目は今度は昼間の市内。路上駐車で戻ったら、車の鍵が掛かっていない。最初は自分が掛け忘れたのかと思った。

カーラジオは抜いて座席の下の隠していたのだが、手を伸ばすとない。なんだか自分で納得が行かいが、これはどうもやられたようだ。はたして自分が鍵を掛け忘れたのかどうか全くわからないが、プロの手口だったのだろう。うまいものだと関心し、窓ガラスが割られなかっただけでも良かったと喜んでいたのだが、、、。

そのまま運転して帰る途中ふと気がついた。そういえば後ろ(この車はワゴンタイプ)に当時テニスを殆ど遊び半分レベルにやっていて、家族のものを含めて5本入れておいた。カバーを開ける。ご想像通り。一本も残っていなかった。要は止めた時から見ていたプロの仕業だ。ここから得た教訓1は、人通りが多いからとか、昼間だからとか言うのは何の役にも立たないと言うことで、それが判ってからはその後約5年間一度も被害に遭わなかった。

斯様に車は常に狙われていて、
教訓2としては絶対に貴重品を車に残してはいけないということ。たとえ、CD一枚でも狙われる対象になる。CD一枚ぐらいと思う無かれ。大変なのは窓ガラスを割られた時だ。

車に乗るときに道を聞かれたら注意。あなたが車のロックをはずして乗った後、再ロックする前の一瞬が狙われる。貴重品の入ったバッグを助手席に乗せ、さてスタートしようとした時に誰かが道を聞きに来る。その時はまだロックを掛けていなかったとしよう。道を聞きにきた男に気を取られている間に、反対側には助手席のドアを開けて獲物を狙う相棒がいるのだ。
また、こんな話もある。駐車場に戻ったら車がパンク。あなたは車のパンクを直す時にいちいちドアをロックするだろうか。バッグを車において、しゃがみ込んでタイヤを見た時が狙われやすい

また、私自身の体験だが、狐に化かされたような気持ちのままの経験がある。トランクに物を入れて閉めた。そのまま目的地へ着いたら入れたはずの物がない。どう考えても分らないが、トランクへ積んだつもりが積まなかったのだろうか。その時はそう考えるしかなかった。

しかしちょっと考えが変ったのはこれと同じ様な経験をした人がのちに出てきたからだ。車の後ろトランクにコンピュータなど貴重品が入ったカバンを積んで閉めた。他にも同乗者がいて、数個のバッグが積まれた。後で空けたら彼のバッグのみなくなっていた。その間変った事といえば、その時雨が降っていて、車に乗るときに誰かが話しかけて来たということだ。しかし、トランクが開けられた覚えはなく、もし開けられたとしたら、せいぜい10cmほど、コンピュータが入ったアタッシュケースの厚みくらいだったのだろうか。これもどうしてなくなったのか、本当のところは分っていない。


第八話 :あまり触れられないジプシー達のこと

ヨーロッパにはジプシーと呼ばれる人達がいる。もう何百年前からの遊牧民でもともと何処の出身かと言うことはなく、アジアだという人もいれば、スペインやアフリカだという人もいる。オペラ「カルメン」もジプシーだし、「トロバトーレ」や「椿姫」にはジプシーが出てくるし、オペレッタには「ジプシー男爵」と言うのもある。 「ハンガリアン舞曲」などはジプシーの臭いぷんぷんだし、ヨーロッパには根付いていると言っても良い。

何をやっているのかは知らないが、聞くところによると欧州にはジプシー保護に関する協定があって、各国で受け入れる最低限の数があるらしい。大体集団で行動し、ヨーロッパ各国を浮遊しているらしい。何処かに住み着くジプシーもいる様で、自分達の言葉以外に住み着いた国の言葉も当然普通にあやつる。

或るとき郊外でジプシーの集会に出くわした事がある。ボスと思しき人物が100人以上はいた集団を前にとても大きな声で、威厳のある態度で「講話」らしきものを垂れていた。
またある時フランスの高速道路ですれ違った一団は皆高級車ベンツに乗っていて、移動の最中の様であったが壮観だった。一方、よれよれの車ばかしの一団ともすれ違ったことがある。

さて、ヨーロッパの観光地へ行くとこのジプシーを見掛ける。子供か女子の集団(とは言っても大体3人くらいだが)が新聞紙を持って近寄って来たら注意。新聞紙は物乞いをするためと思ったら大間違い。あなたの首の辺りに新聞紙が差し出されここに何か下さいと言う顔が見えたら、もう新聞紙の下から手が伸びてあなたの懐のポケットが探られているはず。

私もジプシー達には何度も囲まれた。6〜7人の17歳前後と思しき男の子達に周りを囲まれた時はちょっとあせった。こういう子供達は滅多に見掛けないからだ。3〜4人の少女に囲まれたこともある。私の場合、イタリアなら「VIA!」(あっちへ行け)の一言ですむ。彼らはこちらが手口を知っていると判ったらそれ以上はしつこくしない。


ただ、普通はしつこい。貴女が買い物やショーウインドウに夢中になっていると知らぬ間にジプシー達が近寄っている。一言で追い払えばそれでよし、貴女が何も言わないで呆然としていたり、逃げたりすると恐らくしつこく追いかける。ある時、友人と一緒に駅の一時荷物預かり所の順番を待っていた。気づくと私の友人が体を左右にくねらせている。こんなところで、ストレッチ体操でもしているのかと思ってふと気がつくと、彼の周りに3人の女ジプシーがたかって、盛んに友人の服の懐に手を伸ばしているのだ。彼は声を出すでもなく、体でひたすら防戦一方。私の一言で皆立ち去った。

私自身、トリノで、フィレンツエで、パリで、スペインで、スイスでもジプシーとの追い掛けっこを目撃している。私の知るところ、捕まえてもそのジプシーが盗んだ物を持っていることはまずない。恐らく逃げながら誰かに渡しているのだろう。 或る知り合いがミラノでジプシーにお金を取られた。彼は直ぐに気づき少女を捕まえて、「盗った者を返せ」と迫るが、一向に出さない。人前で身体検査をする訳にはいかないので弱っていると、少女は自分からシャツをたくし上げ、更に下着を広げて何もないところを見せたと言う。

取られた方が閉口していると、警察がやって来てジプシーと何か話しをしたら、ジプシーが取ったものを返したそうだ。ジプシーを捕まえても留置所に入れることは殆どないと聞く。彼らは暴力は使わないし、何も出てこないので一晩留置しただけで釈放するので警察が面倒くさがっていると聞いた。


日本人にはジプシーに対する寛大さを理解するのは難しいだろう。海外旅行で物を盗まれたら自分の責任で処理しようと思っていた方が良いというのもひとつの真理。あまりにも無用心な日本人にはイタリアの警察さえもあきれているのだから。
とにかく、買い物に夢中になって気づいたら、バッグの中身が空っぽだということがないようにご用心を。有名ブランドの名前の入った紙バックなどは格好の道案内(獲物がここに入っているという意味)だとも聞きますよ。


第七話 :ここにもいた釣銭ごまかし

ロンドンでの話。時代は20年ほど遡る。仕事で北欧を回りスコットランドからロンドンへ来ていた。ロンドンは最終地で明日は日本へ帰るという日、同行の日本人二人とSOHOへ出掛けた。食事を終えたあと、日本人の常でちょっと一杯ということで近くの居酒屋へ。地下にあってドリンクがショー付き20ポンドだった。

その頃円は益々強くなっていて20Pというのは3000円から4000円くらいだったと記憶している。入り口で先に支払うことになっていて、まず私が20P札を渡す。渡しながら友人と話を続けていた。友人たちもそれぞれ20Pを準備して私の次に続こうとしていた。なかなか入場のチケットを出さないので、どうしたのか聞く。

そうしたら窓口の男が芝居がかった仕草で今貰ったのは5Pだと、手に持っている紙幣の束の一番上を指差すではないか。一瞬しまったと思った。
教訓:支払う際にきょろきょろしない。自分の出したお金の行き先を最後まで見ていること。
 油断していた。友人との話に夢中になって出した金の行方を追っていなかったのだ。

まずいと思いながらも自分が出したのが20Pだと自信があった私は、ここで大声を出してまず異議を唱える。良かったのは、まだ友人たちがお金を出していなかった。 これが幸いした。 私は友人たちに金を引っ込めさせた。争いを好まない日本人はえてしてこういう場合もアッソウカで片付けてしまうことが多い。しかし、私は騙された上こんなところに入る気はしない。

マネージャーを呼ばせた。直ぐにやってきた。何のことはないすぐ壁の後ろにいたので、事情は全て知っていたと思われる。まだ他の2人が払っていないという状況を悟ったのであろうマネージャーは、窓口の男に「このお客さんにまず 20pをお返ししなさい」と言う。そして、とりあえず20Pが戻って来た。マネージャーは、誠に申し訳なかったと言い、それではもう一度皆さんの分をお支払下さいと来た。残念ながらその気にならない私たちはさっさとその場を後にしたことは言うまでもない。


これは釣銭のごまかしでは無いが、この様にお札を使ったトリックは多い。勿論中には意識せずに間違うということもあるだろうが、旅行客などを相手にしているところは、お札に慣れていない事や金銭感覚が外貨だと薄いことなどを利用してトリックに走るケースもあるので、お金を扱う時は銀行などでも最新の注意が必要である。

この話にも後があり、店を出てホテルへ戻る私たちに背の高い男が一人近づいてきた。そして私達が今遭遇したことをそばで見ていた様な事を言う。そして、私達は足早にホテルへ向かっているのだが、この男はずーっと付いてきて、ああいったバーが人に迷惑を掛けて困るとか、あのバーは○○系(ある外国の国名)で、性質が悪いとか、話しっぱなしだ。15分ほどずーっと付いてきたと思うが、最後にやはり、「ところで私が知っている安全な場所があるが行かないか」と来た。海外にも色々な手がある。皆さんご注意を!


第六話 :地下鉄の横向きスリ


第六話はローマでの話。ローマではあまり地下鉄に馴染みがなかったが一度乗ってみることにした。乗った場所は定かではないが目的地はテルミニ(終着駅)、つまりローマ駅である。

丁度ラッシュアワーに入るような時間帯で結構混んでいる。私が乗ろうとした出入り口からは10人くらいが乗って来た。その中にイタリア人ではない3人組みがいた。この出入り口から私とこの3人組が同時に乗ったのは殆ど偶然だと思われる。前もって狙われていたとは思えず、つまりこれからの話はゆきずりだと思われるのだ。

さあて、この3人のうちの一人は背が高い。そしてこの3人はどどーっと乗って来た10人くらいの中にいるのだが、近くにいない。つまりお互い離れている。そして一人は周りの人から首をひとつ出すくらいの感じで残りの2人と話をしている。話を聞けばイタリア人ではないことがわかる。とにかく大きな声で話をしているのだ。

私はこの大男のすぐそばにいたが、角度は90度ずれている。しかし、混んでいる社内で私は左後ろポケットに人の手が触れるのを感じた。混んでいる社内なのでちょっと触れる事はある。第五話で述べた様に私の財布の在り処はズポンの後ろ左ポケットである。

ちょっと気になったので、腰を少しずらす。男3人はずーっとしゃべりっぱなしである。しかし一旦離れた手がまた私の後ろポケットを探る。この大男とはかなり角度があるが、何と背が高い分だけ手も長いこの男はしつように狙ったものを追い掛けてるわけだ。相変わらず大きな声で仲間と話している。

もう少し腰をずらす。今度ははっきりと追って来ている。私はここで一気に約90度ほど向きを変えた。くだんの男とはもう相対するような形だ、獲物を失った男はそれでも演技抜群で、他の男たちと話していた。

次の駅で降りる時に私は周りに聞こえるくらいの声で、この電車には泥棒が乗っているといいながら下車した。何人かの人があわてて降りて来た。

スリの手口と言うのは色々あると思うが、仲間と話しながらと言うのは初めてお目にかかった。イタリアではバスなどでもスリの被害が多いが、聞くところによると被害が多い路線というのは決まっているらしい。もし、バスや電車に乗る機会があったなら近くで話ながら、なんとなく近づいているグループがいたら注意しよう。



第五話 :エスカレータの落とし穴

第五話はまたパリに戻る。時間は夕暮れ時とは言ってもまだラッシュアワー前で人通りは少ない。この人通りの少なさとエスカレータと言うのが今回のキーワード。

早めに用事が済んだのでホテルへ戻ろうとしていた。時間は夕方の5時頃。夏は10時まで明るいパリも冬に入ろうとしていたこの時期は5時で少し薄暗い。市内からメトロを使って降りる駅へ。時間が早かったのでいつも出る改札ではなく、反対側から出て外を回ってホテルへ帰ろうかと考えた。

それで、メトロを降りて左の出口へ向かう、が、ホームの一番端に来たあたりで考えを変えた。Uターンしていつもの方向へ戻る。その時に前から来た二人組みが、同じ様にUターンしたことはそんなに気に留めなかった。

一度反対方向へ歩いた私は、当然降りる人の中で一番後ろを歩いている。前を歩いている人はずーっと先だ。長いエスカレータに乗る。前は誰もいない。後ろに先ほどの二人組みが乗ってきた。二人組みとの間隔は10m以上ある。長いエスカレータが終点に差し掛かる5mくらい前にふと気づくと2人組が私のすぐ後ろにいた。

(教訓: 地下鉄の中で一人になる場所は避ける。)

しかも、一人が棒の様なもので私の右の尻を軽くつつく。後ろを振り返るが、相手は知らぬ振り。その時二人組みの一人が私の脇をすり抜け前へ。そのまま降りると思ったら、定期券の様なものを私のステップの前に落とす。エスカレータは終点である。私は降りねばならないので、足を踏み出そうとするが、その男の手が邪魔で足を踏み出せない。

躓いてころびそうになる。後ろにいた男が私を押す。早く降りろと言う意味かと思いながらも手が邪魔で降りれない。その時後ろの男が私のコートを後ろからめくった。

実に巧妙に考えられた仕掛けだ。先ほど尻を突いたのは、私の財布のありかを確かめたのだった。殆どの日本人同様、私も後ろポケットに財布を入れる習慣があった。
前も後ろも誰もいない。そこで、二人組みのトラップにまんまと嵌ってしまった。

咄嗟に「私は攻撃を受けている」との自覚に目覚め、後ろの男を掴んで押し倒す。この間5秒もないであろう。これでこの話も終わりだ。エスカレータを降りた私は二人を睨む。相手があろうことか、PARDONの一言でそのまま去ろうとする。私は冗談じゃないと啖呵を切る。ポリスという言葉が口を出る。そうしたら、二人組みが態度を変えて凄む。手を懐に差入れ二人で何か話している。

これ以上は危険だなと思った私は、そこでさっと出口を(パリの地下鉄の出口は殆ど無人であり、誰も近くにはいない)出て二人から離れて去った。

実はその後イタリアで全くこれと同じ目に会った人の話を聞いた。エスカレータ+降りる前に何か物を落とすが同じパターン。一人が拾い上げようとするが、なかなか拾わない。そして、後ろから来た男に数十万円入った財布を盗られたそうだ。

第四話 :ローマ、テルミニ駅前のキャッチバー

さて、イタリアはローマ。ここにも超古典的な手口がある。登場人物は或る外国人(イタリアにおける外国人のこと)。場所はローマの終着駅(テルミニ)の近く。旅行者(この場合私)が一人でBARでコーヒーを飲んでいると言う場面からスタートする。

時は夕暮れ時。なんとなく暇でゆっくりコーヒーを飲みにBARに入った。すると旅行者風の外国人に声を掛けられる。ちょっと話をする。お互い一人旅の旅行者同士。世界の観光地ローマに来ているのに、手持ち無沙汰だと見られる。彼はどこどこから来た旅行者であると自己紹介。そして、もし当方に時間があるなら、自分はすぐ隣に知っているところがあるので、付き合わないかと誘われる。

相手は金持ちそうには見えないが、それは当方も同じ。安バーで安酒の一杯でもご馳走してくれるのかと思い、あまり警戒もしないまま付いていく。

着いたところは、外からでは判らないが地下へ降りると、これはどう見てもナイトクラブ。我々以外客はいない。ソファーに座る。ウエイターが来て、彼が何かを頼み私はカンパリソーダか何かを貰う。

女性が来る。5-6人来る。彼を見る。慣れている様子。任せてみるか、どうせ彼が払うのだ、と腹を決める。そのうち美人の一人が何かを注文する。ボーイが持ってくる。シャンペンだ。私に目で「シャンペンを開けるよ?」と合図を送る。

お分かりでしょう。すべて仕組まれたこと。勿論外国人は囮、つまりキャッチボーイ(別にボーイではないが)。カモを連れてくるのが彼の仕事。この手口は有名で、20万ー30万円ほどふんだくられた話がゴマンとある。恐らくもっと大金を払った人もあるだろう。
(教訓: ローマで知らない外国人に付いて行かない)

この話は1971年だ。日本人の旅行者は今に比べればまだ少なかったが、旅行ブームの走りで、毎年大幅に増加していた。こういった輩に新しいカモだと日本人が狙われ始めた頃の話。

さて、私の話はすぐ終わる。
シャンペンを見せられた時に私は本能的に危険を感じ、男を見た。男は知らぬ振り。それはお前の問題だと顔が言っている。私はシャンペンの代金を尋ねた。そしてそんな金は無いと伝えた。シャンペンは開けられなかった。

私は「用事があるので失礼する」と男に言い、あくまで芝居を決め込む男は「ああ、その方が良い」と言ったと覚えている。クラブを出るときは入るときにはいなかった黒服の男が二人入り口の両脇に立っていた。私は結局カンパリソーダ一杯をタダ飲みしたのだ。恐らく、男は後で今回の不首尾を責められた事であろう。

この話に後日談をつける。後日とは言っても、約25年後の話。
私の友人がローマに行くと言う。何か注意することはないかと言うので、この話をしてくれぐれも駅の近くで話しかけてくる男に注意するよう教えた。帰国した彼にどうだったと聞くと、「お前の言うとおりだった」と言う返事。そうか、それで何も被害には会わなかったのだな、と安心すると、「いや、付いて行ったら全く同じ事で20万円ぼられた」と。いやはや。そういえばこの友人は学生時代「探検部」に属していた強者だと言うことを後で思い出した。


第三話 :ニューヨーク空港における古典的なタクシー詐欺

狙われやすいのはやはり一人のとき。これは古典的な話で同じ目に会った人の話を本で読んだりした事もあるが、私の経験は1970年代のことなので古典になる前かも知れない。

ところはニューヨークJFK。税関を出てタクシーを探すと”タクシー!”と言って近づいてくるのがいる。
(教訓:空港で「タクシー!」と言って近づいてくるのは、世界共通!絶対に相手にしてはいけない!!必ずタクシー乗り場で乗ること)

さて、私が気を許してしまったタクシー?運転手は私のトランクを持つや、どんどん歩いて行く。12時間のフライトで頭が半分眠ったままの私が付いていくのがやっとというくらいの速さで歩く。どうもおかしいと思って待てと行っても、聞きやしない。

とにかく、トランクを持っても歩くのがやたら速い。そして着いたところは駐車場。どこをどう歩いたかも判らず連れて来られた。とにかく、トランクが人(?)質になっているので、あきらめる訳にも行かない。

ここで大体事情が飲み込め、引っ掛かったなと思いつつも、どこをどう戻ったら良いか、頭が半分眠ったままの私は見当もつかず、観念して交渉を始めた。

高く吹っかける事は判っていても、英語はさほど不自由しないので交渉で良い条件を得ようと試みたのだが。だが、相手はフンフンと、交渉するでもなく、勝手に私のトランクを車の後ろに詰め込むと、とにかく乗れと言って動き出す。

私はしつこく交渉を進める。敵は話をそらす。そして、私はJFKからダウンタウンまでの道は知らないが、過去の経験からどうも道が違うことに気づく。どこへ行くのかと聞くと、ガソリンスタンドに寄ると言う。

ここで私の採った行動は恐らく常軌を逸している。若かりし頃のことだ。私は後部座席で横になると、ドアを両足で思い切り蹴飛ばし始めた。

これには、運転手が驚いたようだ。慌てて車を止めると私に向かって、片手を振り上げ「やめろ!俺の車を壊すな!空手でお前を痛めつけるぞ!」ときた。

時差ぼけもあったのか、全く怖さを感じない精神状態になってしまっていた私は「ふん!やるならやれ、空手がどうした!」と言いながら、益々強くドアを蹴飛ばした。怒り狂ったが脅しが効かないと見た運転手は、すぐに諦め、「わかった、そこで降ろすから蹴るのをやめろ」と折れて来たのだ。

まあこんな話で、「タクシー!」と言って近づいて来るのに乗ってはいけないと言うお話が自慢話になってはいけない。皆さんは決して私のマネをしない様に。
あとで、時差ぼけが治って、自分の行動を振り返ったら背筋が寒くなったので。

さて事後談を簡潔に。GSで降ろされた私は近くのホテルまで荷物を持って行きタクシーを探すが、そこはモーテルなのでタクシーはいない。ホテルのボーイに頼んで呼んで貰うという頭が働かなかった私は、表に出てタクシーを探すと、先ほどの車がまだそこにいる。私は先ほど別れた運転手と今度は乗る前に交渉して、結局はその車で目的のホテルへ着いたのであった。



第二話 : 騙されたのかでないのか良く分らないが、ちょっとした手品を知っていれば出来る詐欺のはなし

海外で生活をしていれば、車に乗る。車に乗ればガソリンスタンドに寄るであろう。イタリアでのガソリンスタンドでの色々なお話。

その一: ガソリンスタンドで満タンだと言ったのに、満タンにしなかったら要注意。満タンだと言えば1リッターでも多く入れたいと思うのはスタンド側。これは日本でもイタリアでも同じ。ある時満タンだと言うのに、半分しか入れないスタンドにお目にかかった。実は被害に合わなかったので、何を企んだのか判らないが(何も企んでおらず、単に仕事したくなかったのだと言う事も考えられるが)

推測だが理由はふたつ。満タンだと例えば90ユーロだとする。100ユーロで10ユーロのお釣り。満タンにしないで60ユーロだとお釣りは40ユーロ。40ユーロだとお釣りを良く注意しましょう。30ユーロしかないかも。または、下のその三で述べていることと同じ手口だが、45ユーロくらいで止めておいて、100ユーロを出すと、先ほど貰ったのは50ユーロだったと言うケース。私が50ユーロ札を出したとしたらこの企みは未遂に終わったことになる。

もうひとつは単純に満タンにしたと言って満タン分料金を取る(もし私がメータを良く見ていなかったら引っ掛かるかもしれない)。

その二:: 馴染みでないガソリンスタンドでオイル交換をする時は注意。
キャブレータもフロントワイパーも皆交換しろというのを断って、コーヒーを飲みに行ったのが間違い。やけに速いオイル交換だった。替えたのか、でないのか調べようがない。これは、まんまとやられました。

その三:これもお金のトリック。昔の話。ガソリン代、10万リラ払ってお釣りを待っているのになかなかお釣りを持ってこない。催促に行くと、先ほど貰ったのは5万リラだとぬけぬけと。財布を開けさせて、一番上の10万リラを取り上げた。 なんと、謝って来たが、冗談はよせとの私の言葉で険悪な雰囲気に。
代金を払って、さっさと引き揚げた。

いつもの行きつけでないガソリンスタンドでも特に一見さん、外国人などを相手とする高速道路のスタンドは、料金表もお金もよーく見ていること。セルフでなくても外へ出て良く見ているのが騙されないこつ。イタリア全体の商習慣を非難する気は毛頭ないが、高速道路のガソリンスタンドでは何度も不愉快な目にあったので述べておく。勿論、一般の常客を相手にするスタンドは日本と同じですよ。



第一話 : パリの偽警察官

これは私の長い泥棒たちとのつきあいの中でも比較的最近に属するお話。

ところはパリ。時は9月、時間は夕暮れ時。私は日本を出てフランクフルト経由でパリへ着いたばかしだった。9月のパリは7時では明るい。私は一人で外に出た。まだデパートは空いている。パリは今回の予定では通過点でしかない。翌日午前中に人と会いその後はミラノだ。時間の或る時にデパートを覗こうと
思ったのは私の仕事柄いつもとる行動である。

さて、私のホテルは中心からはちょっと離れて北駅の近く。そこから散歩を始めて約1時間後にホテルの近くまで戻って来た。そうするとわざわざ道路を横断して私に近づいて来た男がいる。

下手な英語でエッフェル塔はどこだと聞くではないか。
 
(教訓:パリでエッフェル塔の場所を聞く男一人に注意)

こんなところにエッフェル塔がある訳はない。面倒臭かったので、それはあっちだと方向はともかく適当に指し示す。言葉が通じないと思ったのか、” DOU YOU SPEAK ENGLISH?”と聞いてくる。

そしたら、今度は反対側から二人組がやってきた。そして来るや否や警察手帳のようなものをチラッと見せて”POLICEだ”と言う。そして、一人が私に近づいて来た男を脇へ追いやって何かを聞いている風を装う。私の担当者は私にパスポ
ートを見せろと言う。

これが台本どおりのやり方。 つまり、場面としては麻薬を売る売人とそれを買う旅行者を見つけた警察官がやって来たと言う、フレンチコネクションでも想像してもらおう。すごい場面にいきなりぶつかる訳だ。 

そして、パスポートを見せるとどうするか。まずそれを取り上げる。そして次に持っ
ているバッグ(日本人は必ずポシェットを持っている)を見せろと言ってそれを取り
上げて逃げる、か又はパスポートを出そうとした時にポシェットごと奪う。

さて、私はどうしたかと言うと、パスポートを見せろと言った途端に、何をこの偽警官とつぶやいて、さっさとホテルへ戻った。残った3人がポカンとしていたのは言うまでもない。

実は私に後で寄ってきた2人が絶対に警官でないと言う確信があったわけではない。ただ、こんなところでパスポートなど見せられるものかと思っただけで、本当の警察ならそこで話が終わったりはしない。

非常に良く使われている演出のパターンで、しかも3‐4人で芝居を打つという点が凝っていて初めての人にはちょっと見破れないかも知れないので、こんな手があるということを知っておいて欲しい。直線上に配置
学院長の泥棒物語
さて、学院長の泥棒物語とは大袈裟なタイトルが付いたものですが、決して学院長は泥棒ではありません。学院長は学生時代から数多く海外へ出かけていて、その分だけ色々な詐欺まがいの仕掛けに遭遇しています。 

学院長自身、殆ど実害にはあっていない一方、海外に初めて行く方は色々な危険が待ち受けていることを知ってか知らずか、簡単に泥棒達のトリックに引っ掛かっている事を聞きます。

それなのに、そのことを詳しく書いた本にはまだめぐり合っていません。
語学を勉強したい人たちは海外への夢も大きいと思います。学院長が出会った色んなトリックは古典的なものが多く、パターンは変らず今でも同じ事が起こり得ます。
海外は楽しいことも多いが、危険も多い。従い、ここにその体験談を書くことにしました。少しでもお役に立てば幸いです。